2009/06/21 Sundayauthor: JummaNet サイト管理者

奥田さんのニーム育ちの「メロン」インタビュー

2008年からスタートした「お買い物でジュマネット支援プロジェクト」の第1弾でご紹介した「奥田さんのニーム育ちのメロン」の生産者である奥田潤二さんのお話を紹介します。奥田さんは北海道富良野で農業を営みながら、2004年からジュマ・ネットを会員として応援してくださっています。

農薬の代わりにニーム(写真)のオイルを使って農作物を育てる奥田さん。その奥田さんのユニークな取り組みと、バングラデシュやチッタゴン丘陵地帯との関わりについてお話を伺いました。


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ニームの樹木(タイ)

右から2番目が奥田さん。チッタゴン丘陵にて
okudasan1.jpgプロフィール:奥田潤二 1962年生まれ。埼玉県出身。千葉県の「風の学校」ほか、いくつかの農場で有機農業を学ぶ。タイで農業協力をしていた時、「平成の米騒動」が起こり、それをきっかけに日本で農業経営を始める。2001年から北海道中富良野町に移住。
ジュマ・ネット会員歴6年。


Q:今年も奥田さんのメロンをジュマ・ネットで販売させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。今年の栽培の状況はどうでしょうか?

奥田:昨年は5月の異常低温で成育が遅れ、玉も小さくなってしまいましたが、今年は暖かい日が続き、今のところは比較的順調です。これから何が起こるかわかりませんが・・・

Q:今年も昨年と同じような赤肉のメロンでしょうか?

奥田:赤肉のルピアレッドと、今年は緑肉のキングメルティの他何種類か試験栽培します。今年は難しいかもしれませんが、将来は赤肉と緑肉などいくつかの種類のメロンを一緒にお送りできるようにしたいと考えています。またメロンの他にスゥィートコーン、ズッキーニ、フルーツトマトなどいろいろな野菜をミックスした夏野菜セットを作る予定です。もちろん、全てニームを使って無農薬で栽培しています。

Q:北海道で農業をされていく上でいろいろと大変なことがあると思いますが、苦労されたこととかありましたらお聞かせください。

奥田:私は以前、東京都のあきる野市で農業をしていたのですが、開発が進んで十分な土地が借りられなくなり、2001年に現在の北海道中富良野町に移りました。苦労というと、思っていたより気候が厳しいということです。こちらで農業を始めて2年目の6月24日にすごい冷え込みが来て、この時期になんと霜が降りたのです。前の日からズッキーニの収穫が始まっていて、さあこれからだという時だったのですが、1500株全滅しました!あの光景は今でも忘れられません。
しかし、寒暖差の激しい、厳しい気候だから、おいしい作物ができるということも言えます。8月上旬のメロンの収穫期、こちらも日中はかなり暑くなるのですが、夜はエアコンも扇風機もなしでぐっすり眠れます。そのため果物や野菜も糖が蓄積され、ここでしか作れないすばらしい味になるのです。

Q:奥田さんのメロンの特徴は、ニームという薬用植物のエキスを使い、無農薬で栽培しているということですが、ニームを使うようになったきっかけは何でしょうか?

奥田:私は1993年から2年間、有機農業を普及しているタイの農業開発訓練センターで、アドバイザーとして働いていました。この農場はプミポン国王が地域開発のプログラムとして無農薬野菜の栽培(特にメロンが売り物だったのですが)を地域の農民に普及させるということを目指してつくられたものです。それで、ここの農場では化学農薬を一切使用せず、堆肥による土づくりとニームなどの天然資材の活用を勧めていました。そこで私自身も始めてニームを使い、その効果を確認したのです。
しかし、ニームそのものを始めて知ったのは、まだ学生の頃、シャプラニールというNGOを手伝っていた時です。手工芸品の販売を担当していたのですが、現地の取引先NGOからニーム石けんのサンプルが送られてきたのです。アトピーにいいという話だったのですが、残念ながら輸出ライセンスの問題があり生産は中止になりました。

Q:それは奥田さんが今、ニームオイルやニーム石けんを輸入しているNGOですか?

奥田:いいえ、別のNGOです。現在輸入しているのは、「バングラデシュニームファンデーション」という1999年にできたNGOです。このNGOは、ランガマティでもジュマのNGOと提携して、マラリア対策のためのニームの普及を始めています。

Q:ニームは人間や環境に悪影響のない天然の農薬だとは聞いていましたが、マラリア対策にも使われるのですか?

奥田:ニームはインド、ミャンマー原産の樹木でマホガニーの仲間です。種子のオイルや葉のエキスが農薬として使われますが、アユルヴェーダが編纂された頃、今から4000年以上前から、マラリアや皮膚病など様々な病気に効く薬草として活用されてきました。ジュマの村に行っても"おばあちゃんはそれでマラリアを治したと言っているよ"という話を聞きます。しかし、西洋の医薬品が普及するにつれて、その伝統的な知恵や経験も失われていったようです。近年の科学的な研究によると、ニームには解熱効果だけではなく、マラリア原虫そのものを殺す複数の成分が含まれていて、しかもクロロキン以上に強力であることがわかりました。また、ニームにはマラリアを媒介するアノフェレス蚊を遠ざける効果もあります。

Q:たしかニームは「村の薬局」と呼ばれているのでしたね。

奥田:そうです。ニームは現在では世界の熱帯亜熱帯地域に紹介され広まっていますが、東アフリカではムアルバイネ(スワヒリ語で40の病気を治す薬)と呼ばれているらしいです。ニームの小枝には虫歯や歯の病気を予防する成分が含まれていて、歯ブラシの代わりに使われていたという話は有名ですが、そのほかにも、農村の人々の日常生活に大変役に立つのです。
たとえば途上国の貧しい自給自足的な農家は、収穫した穀物を貯蔵している間に害虫に食われて、かなりの量を失ってしまうようです。しかし、ニームの葉を混ぜておくだけで数ヶ月に渡って害虫の被害を防ぐことができます。ニームの樹を1本植えるだけで、高価な貯蔵施設を作ったり、危険な化学薬品を使わなくて済むのです。
また、ニームは強健で成長が早く、痩せ地、乾燥にも強いことからアフリカのサヘル地域など砂漠化が進行している地域で植林樹種としても活躍しています。

Q:ニームの安全性についてはどうなのでしょうか?

奥田:安全性についての話をするとき、ニームを普及している人たちがよく持ち出す話があります。これは本当かどうか分かりませんが、マハトマ・ガンディーが健康のためにいつもニームの葉を入れたチャツネを噛んでいたというのです。また、タイでは乾季に出るニームの蕾と新芽の部分を山菜として好んで食べます。これは非常に苦いのですが、タイの人は胃にいいと言っています。
しかし、特定の病気を治すために薬草を使う場合は、その人の体質、症状に合わせた用量の決定や配合が必要になりますから、専門的知識を持つ人の指示に従う方がよいです。また、ニームもそうですが、薬草や山菜には非常に良く似ている毒草がありますから活用する場合は注意しなければなりません。

Q:ところで、奥田さんはどのようなきっかけでジュマ・ネットに関わるようになったのですか?

奥田:副代表のトムさんが古い友人で、しばらく音信不通だったのですが、ジュマネットができる数年前に偶然彼と成田空港で再会したのです。当時、トムさんは「ジュマ協力基金」という団体でジュマの人々への支援を行なっていました。その後、東京のあきる野市にあった私の農場に来てもらい、消費者の人たちにその活動について話をしてもらいました。それから、マハルチョリ事件の後、彼と一緒にカグラチョリを視察し、ジュマネットの会員にもならせていただきました。

Q:トムさんとは元々どういうきっかけでお知り合いになったのですか?

奥田:シャプラニールを手伝っていたときに、次期駐在員の英会話の先生をしていた縁で事務所にトムさんが来て、それから彼もシャプラニールの活動に関わるようになりました。
当時、クリシュナムルティに強く影響を受けていたのですが、偶然トムさんも彼の著作を読んでいると聞き、話をするようになりました。

Q:その頃のトムさんについて、何かおもしろいエピソードとかありますか?

奥田:その頃のシャプラニールのスタッフは貧しく、早稲田の生協食堂をよく使っていたらしいのですが、トムさんが食堂のカウンターで"いつものやつ"というと、おばさんがどんぶり2杯と豆腐と納豆を2皿ずつさっと出していた、というのが有名な話です。私は生協の新聞編集委員をしていたのですが、"怪しい人が食堂を利用している"という投書があったように記憶しています。他のスタッフも皆かなり怪しい人たちだったので、必ずしもトムさんのことではないと思いますが・・・そういえばその頃、ネパールを一緒に旅したときも、重い圧力なべと携帯コンロと大豆を携行していて、それをホテルの部屋で煮て(焦がしてしまい、煙が出てホテルのスタッフが飛んできて怒っていましたが)とてもうまそうに食べていました。私にも食べないかと勧めてくれましたが、きっぱり断りました。

Q:奥田さんは元々どうして農業を始められたのでしょうか?

奥田:私は以前、援助の活動に関わっていたのですが、その必要性についてはともかく、自分の関わり方としては、どうもしっくりこないものと感じていました。一方方向ではなく、途上国の人たちと一緒に何かを作り出すような活動をしたいと考えていました。それで、協力している人たちは農民が多いので、言葉も大事ですが、話す内容を持ちたいということから農業の勉強を始めました。もちろん植物を育てるおもしろさというのもありましたが。

Q:農業をされていて最近どのようなことを感じますか?


奥田:消費者の皆さんのほとんどは、農薬をできるだけ使わないで欲しい、安全な食品が欲しいと考えており、それは当然だと思います。しかし、農家が農薬を多く使わなければならないのには理由があります。その一つは外観を重視する国内市場の規格が非常に厳しいということです。そのため、十分食べられるのに、規格に合わないために国内で廃棄されている農産物は莫大な量になると考えられます。
それにもかかわらず海外からの食糧の輸入は増大しています。日本に輸出する食糧を増産するために森林が破壊され、土壌の劣化や水不足が生じているところもあります。CHTでADBの支援を受けた商業林開発の計画が持ち上がっているという記事がジュマネットの会報にありましたが、そういった計画があるのは、森林破壊の進行が非常に早く、将来的な木材や紙資源の供給確保のために準備されていると言えないでしょうか。
各地の先住民に対する人権侵害には、歴史的、政治的な問題や人々の意識の問題、地域の権力者の権益や、あるいは単に行政担当者の問題解決への意欲の無さなどいろいろな理由がありますが、グローバリゼーションによる経済開発の進展とそれを必要とする私たちの社会の不合理な浪費が、間接的部分的にせよ、つながっているのではないかと考えます。

それから農家は毎日、自然の中で働いていますから最近気候が荒れてきていることをよく口にします。温暖化と単純に言い切れるのかは別として、環境破壊がかなり深刻な状況になりつつあるのは確かなようです。私自身、車やトラクタに乗ってますし、ビニールを使わないとメロンはできませんから偉そうなことは言えませんが、小手先ではなく根本的に私たちの意識や文明を転換しなければならない時が来ているのかも知れません。
私が援助に関わっていた頃、「南北問題」はほとんど「南北経済格差問題」として語られていました。NGOも含めて、貧しい途上国の生活をどう改善し引き上げるかということが主なテーマとなっていました。しかし、この地球の中で環境を破壊せずに永続的に暮らしていくという視点に立てば、先住民の人たちの生活の方が(食糧不足やマラリアなどの問題をそのまま放置しておいていいということでは決してありませんが)より適切であることは明らかです。ニームなどの有用植物は自然の贈り物であると同時に、そのように自然と調和して暮らしてきた人たちの知恵の産物でもあります。それを活かしていくという活動によって、少しでもそういう問題を考えるきっかけが作れたらと思います。

Q:奥田さんの今後の夢は?

奥田:現在、現地のNGOが生産しているニーム石けんを輸入して、ジュマネットにも協力していただき(今のところイベント等でのみ)販売しているのですが、将来的には、"この石けん1個を買って使ってもらうと、ジュマネットへの支援になるだけでなく、ジュマの村で1本のニームの木が植えられます"というような、日本の人たちとジュマの人たちが直接つながっていくプログラムがやれないだろうかと考えています。
しかし、苗木をただ配布すれば木が育つというものではなく、大切に面倒を見る人がいないと木は大きくなりません。ですから、この木を植えるとこういう役に立つよ、ということを村人にしっかりと伝えることが大事です。それでまず、ニームや他の有用樹木についての村人向けのパンフレットをつくっています。

Q:最後に皆さんにメッセージがありましたらお願いします。

奥田:北海道にいらっしゃるときは中富良野にもぜひお立ち寄りください。有機農業の仲間が廃校になった分校を改造して「ぬくもり庵」という都市と農村との交流を目的とする宿泊施設を運営しており、1泊大人2500円、子供1000円で泊まれます。自炊ですが、野菜等は私の農場のものを提供します。作業をお手伝いいただける方も大歓迎です。

:どうもありがとうございました。メロンを楽しみにしています。