2010/11/02 Tuesdayauthor: JummaNet サイト管理者

言わざる聞かざる

シュハーシュ・チャクマ(アジア・人権センター[ACHR]、ニュー・デリー)

 9月25日現地メディアは、ネパール政府が国連平和維持活動局(DPKO)に対し
「国連の平和維持軍の活動では他[の国連機関]と異なる人権基準が国連によって適用されている」
といって異議申し立てしたことを発表した。

直後の9月29日、政府自ら、その報道を否認したが
同政府が人権問題に関して繰り返し国連に異議を申し立てていたことは事実であり
紛争中のネパールで拷問や殺人事件に関与した疑いでニランジャン・バスネット少佐がチャドへの国連平和維持活動から帰還させられたことにネパール陸軍が激怒していることなどと関連しているのは明らかである。

ネパール政府は、国連と在カトマンズ各国大使館に人権侵害に加担した人員が平和維持軍活動に派遣されないよう審査する仕組みを導入していると主張している。
軍の主張をバスネット少佐の事件に照らし合わせて検討するべきである。

政府はその異議申立書で、2007年にカブレ地方裁判所において、15歳の少女であるマイナ・スヌワルさんに対してバスネット少佐が不当な拘留・拷問・殺害を犯した嫌疑で起訴され、逮捕状と召喚状が出されていることに言及することを怠った。
また、この事件でバスネットが逮捕されたことも、裁判に出頭したこともないことにも言及していない。

 裁判所と警察によるバスネット少佐の引き渡し要請を、軍は繰り返し、はっきりと拒絶する姿勢を示してきた。陸軍幹部は外交官たちに裁判所へのバスネットの引き渡し要求に応じないとはっきり述べてきた。

7月14日、軍は内部調査の末バスネット少佐が「無罪」であると宣言し、国防省も、その判定を追認した。ちなみに陸軍副参謀総長のトラン・シンも自ら深刻な人権侵害の容疑がかけられている。
腐敗は極めて根の深い問題である。(※トラン・シン=トランジャン・ハバドゥル・シン)

ネパールの異議申立は憂慮に値する。
バスネット少佐の事件が明らかに示すように、ネパール政府は審査制度がないにもかかわらず
根拠もなく審査制度があると主張しているようである。
事実、ネパール軍はバスネット少佐のような輩に報酬を与える制度を設けているようにさえ見える。

少佐の例だけではない。非常に多く事件で、刑事訴追すべきことを示す証拠が存在しているにもかかわらず、軍は処罰を逃れさせるために国内裁判所の権力を弱めようとし、容疑者を庇おうとしてきた。

そればかりか容疑をかけられた者を昇格させ、多くの収入が得られる国連の平和維持活動や訓練に派遣しているのだ。

国連がどう反応するかは極めて重要な問題である。
国連平和維持活動では、苦しむ数百万人もの人々と紛争被害を受けた公共機関などを保護し援助している。4大陸には国連平和維持活動局が指揮する16の活動が展開されており、約124,000名の職員が活動に従事している。強い権限を委任されていない場合も多く、平和維持を目的とした信頼関係で成り立っている。
 ※国連広報センターのホームページに「現在国連平和維持活動局が指揮している活動は18件」、平和維持活動局による18件の平和活動への従事要員総数は101,682名とあり。 http://www.unic.or.jp/recent/act.htm#02 PeacekeepingのFACT SHEETには16の活動に124,000人が従事とあり。
http://www.un.org/en/peacekeeping/documents/factsheet.pdf

国連の平和維持活動は主要加盟国から派遣される部隊に支えられている。
派遣人数の多い上位6か国(バングラデシュ、パキスタン、インド、ナイジェリア、エジプト、ネパール)は平和維持軍の圧倒的多数を占めている。上位6か国からの派遣人数は全体の約46%にも及ぶ(2010年5月現在)。

一方これら6か国すべてにおいて人権侵害の被害は後を絶たない。

このいずれの国においても人権侵害が制度化されている特徴が見られる。

少なくとも3か国は民衆の反乱を抑圧する大規模な軍事行動を行っており、広範囲に亘る人権侵害が確認されている。

またこれら6か国では、治安部隊の隊員が犯した人権侵害の罪が、容易に免責される事態が頻発しているのも事実だ。

 人権擁護団体は、このように横行する侵害や免責の実態からして、深刻な人権侵害を犯した相当多くの治安維持軍兵士が平和維持部隊に派遣されているに違いないことを、国連に対し警告してきた。

特にバスネット少佐の事件などは、凶悪な犯罪者が国連の派遣団に加わっている事実を明らかにしている。この実態は、平和維持活動に携わる職員に最高レベルの行動基準を守る責任を負わせていると力説する国連の主張に疑問を投げかける。

国連は、自らの派遣団における国連職員による性的搾取と虐待(SEA)の問題に取り組むための総合的な対応策を策定している。現地と本部での指導を徹底し規則を定める部門を設け、軍隊派遣国と協業して事務総長が提唱する性的搾取と虐待の「ゼロ容認政策」を部隊が厳格に遵守するよう保障している。

しかし国連は平和維持活動に従事する治安部隊の人権問題に関する対応の実績を審査する慣行を未だに定着させていない。

たとえば職員の選考には、事前に人権に関する調査がなされていないのだ。
部隊を提供する国が派遣部隊を選定する方法は不透明であり、報告義務もない。
国連が性的搾取を防ぐ政策を立てている以上、深刻な人権侵害についても有効な策を講じるべきである。

バスネット少佐の事件は、国連が少なくとも上層部の職員を対象とした人権問題についての審査制度を早急に検討しなければならないことを明確に示している。

平和維持活動に従事する人員の調査を怠ることは、国際的な人権規約の守護者たるべき国連が自らの方針を軽視するばかりか、自ら活動を台無しにすることになりかねない。

バン・キムン国連事務総長には、静かな外交でネパール政府に対応する選択肢はない。
犯罪で嫌疑を掛けられた職員を平和維持活動に無理に派遣しようとする試みに対して国連は正々堂々と対処しなければない。そのような試みは国連の品位に対するあからさまな攻撃に他ならない。

国連はこの問題を放置するわけにはいかないはずだ。
手を拱いていれば、国連平和維持軍の有効性と信頼への重大な脅威となるだろう。

(翻訳 高田博美)