2005/02/19 Saturdayauthor: jummanet(n)

チッタゴン丘陵地帯の初等教育:先住民族の子供は母国語教育受けられず

プロトム・アロ紙

先住民族の子供たち、ルドロ・ランシャ、シラ・トンチョンギャ、シャチン・マルマ、トワイ・フラ・チン、オミル・セン・チャクマにベンガル語で名前や学年、学校名を訊いても質問を理解できなかったようだ。しかし、その母国語で訊けばすぐに躊躇なく返事が返ってくる。意味も理解しないまま、子供たちはベンガル語で勉強し、先生とベンガル語でやりとりしている。
 小学校教員のアフチャラ・ベゴムさんやギータ・ラニ・シャハさんもこの事実を認め、先住民族の子供たちを教えるのは大変難しいと語る。子供たちはベンガル語が理解できず、先生たちには子供たちの母国語が分からないからである。このため、先生と生徒の間に溝ができてしまう。月曜日にランガマティ県カウカリ郡ガグラ・ユニオンのボガパラ公立小学校を訪ねた時の様子である。しかし、これはCHT全域の縮図でもある。生徒たちは、教えられている内容を理解しないまま学校に通い続けている。このため、何日か経つと勉強する意欲を失って学校を中退し、教育を受ける機会を奪われる。

 丘陵三県の初等教育局によるとランガマティ県において先住民族児童の小学校への就学率は91.5%だが中退率は20.8%、カグラチョリ県では就学率85%に対して中退率は25%、バンドルバン県では就学率85%に比して中退率は50%にも達するという。CHTでの就学率と中退率は市街地と奥まった農村部では大きな隔たりがあるという。

 バンドルバン初等教育局長モバラク・ホセイン・マジュムダールさんは、先住民族の子供と親は家でベンガル語を使わないため学校のカリキュラムにもついていけないのだと付け加えた。

 一方、先住民族の母国語を使った文化活動に25年前から取り組んでいるジュム芸術協議会代表、モノゴル小学校教員ジミット・ジミット・チャクマさんは、政府の取り組みや丘陵民の母国語教育を推進するための予算、母国語教育カリキュラム、対応できる教員などが欠如しているために母国語教育がなかなか進まない状況だと語る。ランガマティ県初等教育協会会長プロションノ・クマール・チャクマさんは、政府が適切な指導要領や方針を打ち出さないことに起因する問題だと話す。どの言語もしくはアルファベットを教えるのかを決める必要もあると彼は言う。

 カグラチョリ県初等教育担当官カージー・マーフィジュ・ウッディンさんは、現行制度の中で具体的なカリキュラムの作成や教員の養成を行う必要があると語る。

 ランガマティ県評議会議長マニク・ラール・デワンさんは、問題を認めながらも、去年からランガマティ初等教育訓練所(Primary Training Institute、PTI)でチャクマ語講座がC-in-EDコースの授業の一つに加えられたことを話した。さらにチャクマ語教育指導要領および教育方針を策定するために7人からなる委員会が最近結成されたと彼は言う。チャクマ語教師が配属される全ての公立小学校でチャクマ語はチャクマ民族児童には必須科目、他の民族の児童には選択科目として教えられる予定であると言う。ただし、チャクマ語教育は小学校五年生だけが対象だとマニク・ラール・デワンさんは説明する。

 なお、CHT和平協定B章33条B(2)項に「母語による初等教育」が謳われているが、これまで実施されていない。
●コメント

 世界に現存する約6000の言語の内、50%は「瀕死」状態にあり、さらに40%は学んでいる子供たちが少なくて「絶滅一歩手前」の状態だという。北米大陸に元々あった数百の言語はコロンブスの侵略後、民族と共に次々と抹殺されていった。今アメリカ合衆国に残っている175の先住民族言語の内、155(89%)は危機的な状態らしい。1980年代からナバホ民族、チペワ民族などの幾つかの自治組織が保留地内の行政や学校で民族語の使用を推進し始めている。オレゴン州のCoquille民族などは、50年前の録音から言葉を復興しようと取り組んでいる。連邦政府も長年の抑圧・同化政策への反省から1990~92年にNative American Languages Actsという法律で民族言語保護政策を打ち出した。しかし1994年に100万ドルの予算を出したのが関の山で、有効な措置はほとんど取っていない。現ブッシュ政権の超保守「No Child Left Behind」教育政策では「二カ国語教育」という言葉すら消えている。医療や福祉の予算も激しく削られる中で、民族語教育は風前の灯火だ。一方、日本ではアイヌ文化振興法でアイヌ語講座などに予算が出るようになったが、アイヌ語で教育を受ける権利を保証するものではなく、一般の学校で教えるにも至っていない。

 そんな中で、CHT和平協定で母国語教育が謳われ、県評議会議長も公立小学校での実施に意欲を示しているのは大変注目に値する。これを「5年生にチャクマ語」で終わらせてほしくない。人口の少ないムローやクミの言葉など、もっとも危機に瀕している言語にも取り組んでほしい。幼稚園や低学年で母国語による指導を行いながらベンガル語にも慣れさせるのも有効ではないだろうか。マレーシアのサラワク州ではNGOが運営するプレ・スクール(民族語・マレー語併用)の取り組みで先住民族の小学校中退率を下げることが期待されている。二千年間「死語」だったヘブライ語が復活した例もある。民族の魂とも言える「言葉」を未来に継承するジュマ民族の取り組みに今後も注目したい。