2013/10/29 Tuesdayauthor: JummaNet サイト管理者

国連先住民族常設フォーラムへの参加(2010年~2013年)

2013年5月20日~29日まで、ニューヨーク国連本部で行われた先住民族常設フォーラム(UNPFII)第12回会合に参加し、関連する国連機関へのロビー活動を行いました。今年で三年連続の参加となりました。

フォーラムの概要とジュマ民族の提言

今回のフォーラムでは、1)保健、教育、文化および人権に関するこれまでのUNPFII勧告の実施状況、2)国連機関・国際金融機関との対話、3) 2014年秋に開催予定の「世界先住民族会議」、4)土地紛争解決制度などが議題に挙げられました。2013年4月29日に国連人権理事会で行われたばかりのバングラデシュの人権状況の「普遍的・定期的レビュー」(UPR)で数か国が「CHT和平協定の早期実施」を勧告したことのフォローアップも課題でした。また、2014-2016年のUNPFII委員も選任されました。チッタゴン丘陵(CHT)からデバシシュ・ロイ氏(チャクマ王・弁護士)が再任され、アジア先住民族連合(AIPP)事務局長ジョアン・カーリン氏をはじめ、16名の委員が選ばれました。

フォーラムでデバシシュ・ロイ氏は、CHT土地委員会法の不備のために土地問題の解決が滞っていることについて発言し、先住民族権利宣言を「拘束力のない」宣言として軽視する米国政府の発言を批判、国家・雇用主・労組の三者体制からなる国際労働機関(ILO)への先住民族のオブザーバー参加資格を認めるよう要求しました。ジュマ政党PCJSSのマンガル・クマール・チャクマ氏はCHTの憂慮すべき人権状況について報告しました。CHT先住民族国際協議会(ICIP-CHT)のAditya Dewan代表は、CHTで新たなプロジェクトを開始しているアジア開発銀行に対して先住民族との「自由な意思に基づく、事前の合意」(FPIC)形成を徹底し、弊害の多いミクロファイナンスや「ソーシャル・フォレストリー」を避けるよう呼びかけました。CHT市民委員会のゴータム・デワン氏はCHTの土地問題を取り上げました。CHTからは女性代表が2名しか参加していませんでしたが、PCJSSのウジャナ・ラルマ氏とICIP-CHTのヤンヤン氏は、それぞれ教育と憲法の問題について提言しました。

ロビー活動


フォーラムでの提言もさることながら、国連機関や国際NGOにCHT問題の解決への加勢を呼び掛けるロビー活動も重要なテーマとなりました。「CHTにおける軍事化」に関するアップデート(市民外交センター/IWGIA)、「CHTの女性への暴力に関する報告書」(CHT委員会)を関係機関に配布しました。

先住民族の権利に関する特別報告者


ジェームス・アナヤ氏は、CHTでの襲撃事件や土地収奪に関して手紙でバングラデシュ政府と何度かやりとりし、国連大使にも会って現地訪問の希望を伝えてきましたが、政府から招待されないと正式な報告書が出せず、困っているそうです。あと1年で任期が終わるため、異例ながら現地訪問せずに報告書と勧告をまとめると約束しました。

国連開発計画(UNDP)


UNDPでは、CHTでの大規模な開発プロジェクトの期間が終了し、次のフェーズに向けて評価作業が続いているそうです。同プロジェクトは、和平協定の推進を目的に掲げていましたが、予定されていたジュマ帰還難民・国内避難民の再定住支援やジュマの警察官の人材育成などが進まず、住民との協議の場である地元調整委員会があまり機能していないことを指摘しました。「現地事務所との役割分担もあり、微妙なバランスを保たなければならない」とのことでした。女性への暴力に関する地元警察との協力、被害者への法的支援、国内人権委員会の能力開発などに力を入れているとのことでした。

「ジェノサイド防止に関する国連事務総長特別顧問」

民族対立などに起因する人権侵害が大量虐殺に発展する危険性について国連事務総長に注意を促す役割をもつAdama Dieng氏は、昔、国際法曹協会(IAJ)の会報にCHT問題に関する論文を載せましたが、「和平協定で解決した問題」と受け止めていたそうです。ちょうど、CHT問題のリスク分析をインターンに依頼した矢先であり、決められた「分析の枠組」に則って情報を提供してほしいと頼まれました。「CHT問題がシリアのような最悪の事態にならないよう、必要な手を打ちたい」と意欲的でした。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)


エンパイア・ステート・ビル34階に事務所を構えるアメリカ最大の人権NGOと二年ぶりに再会しました。バングラデシュにおける司法外処刑、ロヒンギャ難民、女性に差別的な家族法など、様々な人権問題を取り上げてきましたが、CHT問題にも目を向けてほしいとアピールしました。女性や子供の問題を担当するスタッフが対応し、「バングラデシュ担当に伝えます」と、手ごたえは今ひとつでしたが、情報交換を続けることになりました。

国連平和維持活動(PKO)局


バングラデシュは世界で最も多い約9500人の兵士・警察官を国連PKO活動に派遣し、兵士たちは危険な業務の対価として本国で考えられないほどの高給を得ています。CHTはPKO派遣のための「訓練場」とも言われますが、そこで土地収奪や襲撃事件に加担してきた兵士も少なからずPKOに派遣されていると考えられます。数年前、PKO兵士が派兵先で援助物資と引き換えに性行為を強要したりする不祥事が発覚しましたが、本国での醜態と無関係には思えません。こうした背景から、2011年にUNPFIIは、PKO局に対して「人権侵害に加担した兵士をPKOに派遣しない」ための人権審査制度を設けるよう勧告しました。その後、進展はあったのでしょうか。

お会いしたPKO局アジア・中東局長の中満泉氏によると、昨年12月から新しい審査制度が導入され、PKOに人員を派遣する政府は、その中に「人権侵害を行ったか、その嫌疑をかけられた者はいない」ことを書面で確約することが義務付けられたそうです。国連が直接雇用する司令官なども同様の宣誓書への署名を求められます。誓約に反する事実が判明した時は解雇して本国に送り返します。苦情申し立て窓口は設けていませんが、人権高等弁務官事務所や国連特別報告者、政府、各国の国連常駐調整官から嫌疑が寄せられれば処置を取るそうです。ただ、危険な紛争地域に多数の兵士を派遣してくれる国も限られており、国連も、それに依存しているとのことです。PKOに派兵される兵士は、人権に関する価値観に触れて良い影響を受けるともおっしゃっていました。新審査制度に関する資料を求めましたが、「内規のため公表していない」とのことでした。

今年5月にバングラデシュの兵士600人が新たにマリのPKO活動に派遣されることが決まり、6.75%の昇給も決定されたことが報道されました。ジュマ・ネットは、審査制度が強化された形跡もないまま増員が行われたことに抗議する手紙を作成し、先住民族団体・国際NGO 13団体の賛同を得て中満氏に手渡しました。

CHT問題に関するサイド・イベント

5月28日に国連本部で市民外交センター/IWGIA/サーミ評議会の共催により「先住民族、和平協定、人権:差別のない地域社会を目指して」と題するサイド・イベントを開催しました。国際CHT委員会の共同代表エルサ氏や委員たちは、CHTで人権侵害に対する「免責の文化」がはびこり、和平協定が「主権や領土への脅威」と決めつけられ、土地委員会の機能が麻痺して土地収奪が続き、文民統制の利かない軍の主導で「緩やかなジェノサイド」が進められていることを訴えました。CHTで人権が尊重・推進されるよう国際社会が責任を果たすべきだとアピールしました。