2009/04/28 Tuesdayauthor: JummaNet サイト管理者

連続学習会『先住民族・マイノリティにとって和平協定は希望か?3つの先住民族 抗争の和平協定から考える』

バングラデシュ、チッタゴン丘陵地帯のみならず、慢性化して解決の難しい紛争問題を抱える地域、グアテマラ、インドのナガランドと「先住民族・マイノリティにとっての"和平協定"」という共通のテーマで3回連続の学習会を行いました。

■第1回目:2008年2月実施「グァテマラの和平協定11年と先住民族の権利: 
なぜ和平協定は履行されないのか」 
講師:藤岡美恵子(反差別国際運動グァテマラプロジェクト/法政大学非常勤講師)
青西靖夫(開発と権利のための行動センター)

■第2回目:2008年3月実施「2度目の和平協定は成立するか?-停戦10周年を迎えたナガランド」 
講師:木村真希子(市民外交センター)

■第3回:2008年4月実施「バングラデシュ・チッタゴン丘陵の和平協定10年から  ~和平協定に必要な条件とは 3つの事例のまとめから~」 
講師:トム・エスキルセン(ジュマ・ネット副代表)、   
下澤嶽(ジュマ・ネット代表)


それぞれの和平協定の特徴と学び

●グァテマラ
先住民族がマジョリティという状況だが、国連の監視もある和平協定の成立および実施状況としては理想的な例。政府の履行意識がなく、国連の監視はそれを覆すことはできなかった。憲法改正の国民投票もあったが、逆差別キャンペーンなどの展開と先住民族住民の投票率の低さで至らなかった。住民の参加や教育の機会づくりが、今後の鍵と考えられる。

●ナガ
和平協定の要求内容は独立から自治へと移行。数回の協定が結ばれたが、そのつどマイノリティ側の運動は分裂を繰り返し弱体化していった。居住環境、民族の多様さも抵抗活動の求心力を生み出しにくい状況がある。第3者の介入もない。今後の可能性を考えるうえで、インドのミゾラム州の成功例との比較が重要と思われた。

●チッタゴン丘陵
紛争を作ったのも終了させたのも、インドの政治であった。和平協定としての完成度はそれなりに高くものの、スケジュールが不明で第3者の監視体制もない。一部実施されたが途中で実施状況が土地の問題、入植者の問題で硬直している。また和平協定後活動が分裂しマイノリティの政治力は著しく低下。

これら3回の学習会を通しての学びの要約は以下のとおりです。参考までに。

●希望としての和平協定
  • 虐げられたマイノリティにとって紛争の犠牲や絶望から開放させ、平和の希望を与えるものである。暴力支配、恐怖を止めるきっかけでもある。
  • マイノリティグループのその民族の自決観、自治観、文化観、社会観が理想的に反映される。
  • 戦いへの疲れ、怒りの風化、リーダー世代の交代などから和平協定が生まれる空気やタイミングがつくられる。
●分裂・治安
  • 和平協定はそもそも妥協を含むことで成立する。しかしマイノリティは和平協定を「理想」「理念」「情念」で捉えようとするため、その違いをめぐって活動が分裂に結びつきやすい。
  • 武装解除後、マイノリティグループの力の支配力が弱まり治安が悪くなることがある。
  • 和平協定の失敗は、大きな精神的な民族の傷になる。
●和平協定と住民との距離
  • 和平協定の対話プロセスは一部の武装リーダーに独占され、プロセスは多くの住民にシェアされない。和平協定と住民の間には距離がある。
●第三者の介入
  • 第三者の介入は和平協定実施の確実性を高めるが、拘束力がない場合必ずしも決め手にならない。まずはマジョリティ側の実施の意思が必要である。
●マジョリティにとって
  • マジョリティ側は和平協定の実施・認知することで、他のマイノリティ地域への悪影響を一番恐れている。
  • マジョリティ側が常に妥協できない点は土地の問題である。
  • 実施の意思がない場合、和平協定は安易な政治支配のツールになる。
●今後の可能性を考える
  • 何よりも大切なのはマジョリティ側の実施の意識である。マジョリティ側の実施の実現性の確認や合意形成に時間をかけるべき。
  • 和平協定の実現性を高めるものとして、「不履行時の罰則」「憲法での認知」「第3者の介入」「住民の参加」などをセットに考えることが重要である。
  • 和平協定の基準づくり、国連の介入・監視システムの充実が今後議論されるべきではないか。